ちょうど2年前のいまごろ、シリコンバレーに行く機会があったのですが、
現地で「とある人」とお話しをしたのです。
そのときの3秒くらいのやりとりをいまでも鮮明に覚えています。
そのお相手はPaloAltoNetworksの創業者、NirZuk(ニア・ズーク)さんです。
イスラエル出身の彼は、祖国を離れたシリコンバレーにおいて3社連続で、ニューヨーク証券取引所に上場させています。
当時はPaloAltoNetworksという創業9年目の年商598億円企業の創業者でした。
この規模にもかかわらず、毎年1.5倍~2倍の売上高成長をしている企業でした。
(2年後の現在、598億円だった年商は1378億円に。46ドルだった株価は149ドルに。時価総額は1.3兆円になっています。)
当時の自分は起業1年目でほやほやだったので、積極的にNirさんをつかまえて、あれやこれやと質問したものでした。
Nirさんは、いつもおサルのTシャツを着ている、ゆるキャラ系のおじさんでした。
シリコンバレーに2週間滞在していた間、僕は、
Nirさんを行く先々で、見かけるたびにつかまえて(5回くらい笑)、質問をぶつけまくったのですが、
その中の1つにとても衝撃的で、自分の固定観念が打ち砕かれた一言がありました。
当時は起業したてで、どうやったらうまくいくのか模索しており、このような質問をしました。
Why can you make IPO companies for 3 times serially? (なんで3回も連続で上場できるんですか?)
東京証券取引所よりも要件が厳しいニューヨーク証券取引所に3度も店頭公開している人なので、率直に、端的に、そう聞きました。
すると即答で、こういう一言が返ってきました。
Oh, it’s easy.
「どういう意味だ?」と思って僕が不思議がると、
彼はこう続けました。
Because no one really wants to.
おお、、、、そうきたか!と思いました。
そのとき、他に何を話したかは覚えていませんが、とりあえず握手をしたのを覚えています。
そして、がしっと力んで握手をした自分が恥ずかしいくらいに、
Nirさんの手は緩んでいて、骨がぐりぐりできるくらいに柔らかかったのです。
力づくで握りに行ったのを簡単になぎ倒されてしまったような瞬間でした。
「この人は本当にIt’s easyなんだ」
と悟ったのを覚えています。
そのとき、「体を緩めよう。」と決めました。
もう一つだけ、Nirさんとの印象的なエピソードがあります。
当時、後発の企業でありながら、企業規模が80倍以上あるシェアNo.1大企業(Cisco)のセキュリティシステムをひっくり返しまくっていたPaloAltoNetworks。
何が決め手なのか聞きたかった僕はこういう質問をしました。
Why PaloAltoNetwork has so strong position as compared to the other leading companies? It’s Patent?
特許をとっていることが、既存の大企業をひっくり返せる理由なのか?と思い、
そのような質問をしたのですが、彼は一言。
No, “Position”.
間髪いれずに、このようなことを言っていた記憶があります。
The unique position that the competitors can’t carry out.
16歳のころから20年以上プログラミング漬けで、技術が大好き、パソコン大好き、ITオタクなはずの、目の前にいるCTO(最高技術責任者)が、
技術が大好きなはずなのに、
多くの技術者・開発者が見守る面前で、(200名くらい観衆がいました)
いつも仕事で技術に打ち込んでいる人たちの目の前で、
【特許はほとんど関係ないよ】とさらっと言ってのける姿に、「かっこいいな」と感じました。
なんだか、かっこわるいはずのおサルのTシャツがかっこよく見えてきて、どこで売っているのか聞きたくなってきたほどです。笑
Nirさんが言っていた”Position”を、
日本の経営用語に翻訳すると、ポジショニングと言えるのでしょうか?(でもすこし違うような気がします。)
それはマーケティングにおけるユニークセリングポジション(USP)にとどまらず、セールス、研究開発、技術、人事、社内、社外、そして、もろもろのステークホルダーに示している『統一/一貫した”Position”』=在り方
だという風に、当時の僕は理解しました。
Positioningという経営用語があるにも関わらず、あえてPositionと言っていたことに意味があると思いました。
そして、そのPositionは、企業(人)の歴史として一貫したものであり、他社(他者)がつぎはぎでは絶対に真似できない生き方である、と言っているような気がしました。
というわけで、いまの僕の仕事はそういう意味での「経営=個人・法人の歴史的に明確なポジション」を追究しているような気がします。